セルフアップデート

双極性障害でIT企業をリタイアした中年が、製造業で再チャレンジします

お気に入りの作家 上田秀人「奥祐筆秘帳」シリーズ

*「奥祐筆」シリーズからのファン

自分がファンの作家さんに上田秀人さんがいます。

この方の本との出会いは10年ほど前でしょうか。

この方の「奥祐筆秘帳」シリーズが

この文庫書き下ろし時代小説がすごい!」 という

時代小説のベストを選ぶ企画で1位になった後くらいですね。

 

ジョーカー的な役職を見つけるのがうまい

最近はやや傾向が変わってきましたが、

この方の作品特徴の一つに

ジョーカー的な役職を人を主人公にする」 

という点があります。

ここでいうジョーカーとは

「表向きは大した権限を持っていないのに、

 ある局面ではとてつもなく強力な力を発揮する」

という意味で捉えてください。

 

例えば「奥祐筆秘帳」。

 

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)

密封<奥右筆秘帳> (講談社文庫)

 

 

この作品は、江戸幕府の『奥祐筆』という役職にある壮年の立花併右衛門と、

そのお隣の旗本の次男坊柊衛悟が協力して、さまざまな陰謀に立ち向かっていく、

一種のバディ(相棒)物です。

 

*奥祐筆って何?

この『奥祐筆』という役職は、幕府の書類のチェックや決裁を行う書類係です。

自分自身では企画立案などはせず、あくまでチェックと決裁しか行いません。

従って、奥祐筆自身は何かの施策を実行できるわけではないので、

表向きの身分や権限は低いです。

 

ところで、公的書類というものは決裁が下りないと効力を持ちません。

そして、幕府の書類は奥祐筆がOKを出さない限り、書類は決裁されません

つまり、奥祐筆は幕府の役人の業務の決定権を握っています。

 

例えば、幕府の偉い人(例えば老中)がOKを出した施策でも、

奥祐筆が決裁しないと、その施策は実行できません。

そのため、奥祐筆はいろんな人から賄い(ワイロ)を貰って裕福です。

 

また、作品内ではこちらの職権が重視されているのですが

幕府内の書類は殆どすべて奥祐筆に回ってきます。

おかげで幕府内のあらゆる情報を見通すことが出来ます。

これらの職権により、幕府の裏に流れる陰謀の真相を探っていきます。

 

*「金がないのだ」

奥祐筆シリーズの決まり文句です(笑) 。

 

奥祐筆シリーズの舞台となっている江戸中期のころは

経済活動が活発化し、お金を握る商人の力が拡大したのと

相対的に武士の懐が寂しくなり幕府や諸大名が借金で

がんじがらめになった時期です。

 

シリーズ話で多いのは借金返済などの一発逆転を狙った陰謀が多いです。

(金がない自分も妙に身に沁みます)

 

 

作者の上田さん自身が経済活動などにあまり詳しくないため、

自身の勉強の為に、主人公の若い柊衛悟は「世間知らず」、

奥祐筆で人生の先達が立花併右衛門を「世慣れた役人」に設定し、

併右衛門が物を知らない衛悟に教え諭すように、

その当時の経済状況などを説明する形をとったそうです。。

 

これのおかげで、同じように当時の状況を知らない自分も

随分と勉強になりました。

 

*インフレをおこなさない剣戟

もちろん、陰謀に迫れば命を狙われます。定番ですね。

主人公の柊衛悟自身も相当な使い手ですが、それを上回る腕前の刺客

「冥府防人」との死闘が続きます。

 

おもしろいのは、出てくる刺客が実戦経験が少ない人間が多い点です。

江戸中期になると武士もほとんど戦ったことが無く

道場での練習ばかりになるため、高い技能を持っているのに

実戦の緊張に呑まれて実力を発揮できません。

 

道場で戦えば柊衛悟が負けていたような刺客でも、

実戦で緊張に呑まれたり、頭に血が上って冷静さを失った刺客の

隙につけこんで、紙一重で勝ちを拾っています。

 

この展開は、ドラゴンボールなどであった

「敵の実力のインフレ」という長期連載のバトル漫画の問題を、

うまく抑制しています。

なので、どのシリーズを読んでも柊衛悟の成長が見られながらも、

敵の実力も人間離れしていかず、ちょどよい戦闘になっています。

 

というわけで、とても面白いので、興味を持たれましたら読んでみてください。

 

ではでは。